大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都家庭裁判所 昭和59年(家)842号 審判 1984年4月06日

申立人 藤村由美子

相手方 長瀬松二郎

未成年者 藤村友子

主文

本件申立を却下する。

理由

1  当裁判所において、昭和五七年九月三〇日、申立人と相手方間に下記の審判がなされた(昭和五七年(家)第九三四、九三五号養育料請求事件)。

相手方は申立人に対し、事件本人(申立人と相手方間の非嫡出子、藤村友子昭和四〇年一月二一日生)の養育料として、

(1)  金二一八万五、八〇〇円を直ちに、

(2)  昭和五七年九月以降事件本人が成年に達するまで、一か月金五万円宛を毎月末日限り

支払え。

この審判は申立人より抗告があり、昭和五七年一〇月二七日、大阪高等裁判所において抗告棄却の決定があつたが、申立人は更に特別抗告をなし、その結果昭和五八年一月二〇日、最高裁判所において抗告却下の決定がなされ、ここに該審判は確定した。

2  しかるに申立人は、昭和五九年二月一六日、相手方に対し未成年者(前件の事件本人)の養育料として金二、〇〇〇万円を支払え、との趣旨の調停の申立をした(昭和五九年(家イ)第二〇三号養育料請求事件)。申立の理由は、前件とは関係なく家庭裁判所は養育料の計算をやり直し、相手方に金二、〇〇〇万円の養育料の即時支払を命ずるべきである、というのである。

3  調査官の調査報告書によると、申立人は、自己覚知、現実吟味の能力は殆んど失なわれ、他人の発言を受入れる余裕は全くない情況にあることが認められる。そうだとすると調停を開始しても進展の見込みはなく、無意味であることは明らかであるから、当裁判所は昭和五九年三月二九日、家事審判規則第一三八条前段を適用し、該調停事件を終了した。

4  ところで乙類調停事件を家事審判規則第一三八条前段により終了せしめた場合は、該事件は当然に審判に移行するものなりや否やについて、積極、消極の両説がある。しかし本件は申立人の精神的情況に照らし、調停を開始しても進展は不可能と認めたので、終了させたのであるから、実質的には調停不成立と同視することができ、そうだとすれば不成立と同様、審判に移行するものと解するのが相当である。

5  そこで本件審判事件について考察するに、申立人の申立の理由は、前件の確定審判を無視して、養育料の計算をやり直し、相手方に金二、〇〇〇万円の支払を命ぜよ、というにあることは、前記のとおりである。そうすると申立人の請求は前件確定審判を取消、変更をせよ、というに帰する。しかし養育料請求の確定審判の取消、変更は、民法第八八〇条の準用により、審判があつた後事情に変更を生じたときにのみ許される。しかるに申立人は養育料の再計算を主張するのみで、事情変更については何らの主張もなさず、また本件記録を検してもかかる事実を認め得る証拠もない。そうだとすると本件申立は不適法というべきであるからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田榮一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例